銀のピストル 

  

 

病室の前から動こうとしない清四郎に、着替えてくるよう仲間たちが促した。

「・・・魅録、美童、申し訳ないが、付き合ってもらえますか」

億劫そうに立ち上がった清四郎は、彼らしくなく、仲間との同行を求める。

「あ、ああ」

「うん」

戸惑いながら、魅録と美童は清四郎と共に病院に隣接する菊正宗家に向かった。

 

「・・・すみません。当分、僕から目を離さないでいてもらえますか」

清四郎は友人達から目を逸らせたまま、苦渋の滲んだ声で呟いた。

「またいつ、獣に変わってしまうかもしれないから」

 

魅録と美童は、顔を見合わせる。

「それは、かまわないけどよ。おまえが突然、“ケイ”って奴に変わるっていうのか?」

「・・・まるで、月夜の狼男だね。とても、信じられないよ」

俯いたまま、清四郎は顔を歪めた。

「僕だって、いまだに信じられません。まさか、あんなことをするとは・・・」

 

美童は溜息と共に清四郎の肩を抱いた。

「清四郎が、悠理に恋していることは、知っていたけどね」

清四郎は弾かれたように顔を上げた。

 

魅録は唖然と美童と清四郎を見つめている。

 

「僕は・・・・知りませんでした」

清四郎は搾り出すようにそれだけ言うと、瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

  

 

 霞がかかったような意識の中。痺れるような快感が全身を貫いた。

「・・・悠理・・・」

たまらず、吐息と共に名を呟く。

 

「せ・・・いしろ・・・」

細い声に呼ばれ。

まだ夢うつつのまま、清四郎は目を開ける。快感に酔いながら。

温もりに包まれ、蕩けそうな下肢。抱きしめた華奢な体。

重なった腰を揺らすと、ぐちゅ、と湿った音が立った。

 

「あ・・・あぅ」

甲高く甘い声に、また意識が眩みかける。

しかし、締め付けてくる肉の感触は、あまりにリアルで。

 

「・・・え?」

 

初めて、清四郎ははっきりと目を開けた。

耳を打つのは、激しい雨音と遠雷。そして、か細い彼女の喘ぎ。

 

「ゆ、悠理?!」

 

裂けたシャツから露になった白い胸。限界まで広げられた両脚。

濡れた女の亀裂が男を受け入れている様までが、目に入った。

蠢く内部の収縮。

視覚と触覚が、一致する。

 

ようやく清四郎は気がついた。

夢でも幻影でもなく、彼が犯しているのは現実の悠理なのだと。

 

一瞬、強張った体を、眩暈がするほど心地良く悠理が締め付ける。

「くっ」

腕の下に組み敷いた悠理の体は、逃れようもない吸引力で彼を惹きつけた。

 

「せいしろ・・・清四郎・・・」

仰け反った白い喉が動き、すすり泣きながら彼の名を呼ぶ。

それは、泣き虫で怖がりの悠理の声のようで、初めて聴く女の嬌声。

すがるような仕草と共に、彼に顔を向けた悠理の寄せられた眉と涙に潤んだ瞳。

薄く開けられた紅い唇は、彼を締め付け離さない彼女の蕾と同じ、切なげな露に光る。

 

清四郎の中で何かが爆発した。

「悠理・・・悠理!」

抗いがたい衝動に煽られ、激しく腰を突き入れる。

「ああ、悠理!」

揺れる胸の紅い先端にむしゃぶりつき、膨れ上がった欲望で彼女の内部を擦った。

 

理性は霧散し、感情が欲望を煽った。

悦楽の涙を流し、彼にしがみつくこの体が、悠理なのだと思うだけで。

抉り突き上げても、まだ足りない。

欲しくて欲しくて、気が狂うかと思った。

いや、もう狂っているのかも知れない。

 

あまりの快感の大きさに、何度も身を震わせ、彼は彼女の中に放っていた。

 

「愛してる・・・愛しています」

 

無意識で口走った言葉の意味など、わからぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠理が目を覚ましたわ」

病室の扉を開けた可憐に促され、男たちは特別室に入った。

悠理は野梨子に支えられるようにして、ベッドの上に身を起こしていた。

 

悠理は入室した男たちを見つめる。まだ薬が抜けきっていないのか、少しぼんやりした瞳で。

「悠理・・・」

服を着替え髪もいつものように整えた清四郎の青白い顔に、悠理が視線を向けた。

「!」

一瞬で、悠理の顔色が変わった。

真っ赤に。

 

悠理は震える手で布団を持ち上げ、自分の顔を覆った。

雄弁な仕草だった。

 

「・・・憶えて、いるんですか」

清四郎は痛みに顔を歪める。胸の痛み。罪悪感。

「う、うん・・・だいたい」

悠理は顔の下半分を布団で覆ったまま、目だけ覗かせ小さく頷いた。

「え、えーと・・・皆、悪いけど、清四郎とふたりにしてくれる?」

怖れや嫌悪よりも、羞恥が勝っているらしい。眉は寄せられていたが、覗いた部分の肌は真っ赤だ。

 

悠理の言葉を受けて、可憐と野梨子が動いた。美童と魅録を促し、部屋を出ようとする。

しかし、清四郎は隣に立つ魅録の腕をつかんで制した。

「駄目です。魅録か美童は残ってください。僕から目を離さない約束でしょう」

「え?」

悠理が顔を隠していた布団を下げた。ポカンと口を開けている。

 

「美童が先ほど言った、月夜の狼男――――僕はそれより始末が悪い」

清四郎は唇を噛んだ。

「いつ、自分を見失うかわからない」

 

「・・・自分を見失う・・・・」

悠理は清四郎の言葉をぼんやりと反復した。

「多分、ケイはもう現れないよ。そう言ってた。成仏したがってたもん」

「“ケイ“がそんな話を?」

悠理はコクンと肯いた。

 

「やっぱり、ケイは幽霊だったのか!じゃあ、清四郎、おまえが自分を責めることはない!」

悠理の受けた傷は、変わらないにしろ。

彼女の身に起こった災難ばかりでなく、清四郎の憔悴ぶりに心を痛めていた仲間たちは、安堵の表情をわずかに浮かべた。

 

しかし、清四郎の目から苦悩の色は去らない。

「悠理に見せてください」

清四郎は胸ポケットから写真を取り出し、魅録に渡した。

「なに?」

美童と可憐、野梨子も写真を見る。若い男がバイクに跨っている古い写真だった。

 

「“菊正宗 慧”。親父の一番下の弟、つまり僕の叔父です。先日の法事は、事故で夭折した彼の17回忌でした」

清四郎も憑霊の可能性を考えてはいた。彼には推理の必要もないほどの当然の帰結だ。

 

「あまり・・・清四郎に似てませんわね」

野梨子の言葉通り、どちらかといえば母親似の面差しである清四郎と、その若い男は似ていなかった。

「顔はともかく、叔父は父とも似ていませんでした。彼は家族の“黒い羊“だったんです」

 

扉に背を預けたまま動かない清四郎の代わりに、魅録が悠理に写真を手渡した。

「“黒い羊”?」

悠理は見知らぬ者を見る目で、写真を見つめている。

黒い髪と黒い目は同じでも、清四郎よりも小柄で細身。口の端を上げた笑みが、生意気そうな尖った印象を残す。清四郎の父修平と顔の造作は似ていたが、その表情に知性は見えない。

「これが、ケイ?」

 

清四郎は首を振った。

「おまえを襲った“ケイ”が、本当に叔父の霊魂であったのか、僕には確証がない」

 

「でも、悠理も幽霊だったって・・・清四郎は憑依されてたって思っているんでしょう?」

「う、うん・・・ケイがそう言ってたもん。あたいと会ったせいで、清四郎に憑依できたって。好きなことをするって・・・そんで・・・」

「言わなくていいですわ、悠理!」

「そんで、ちゃんと生まれ変わりたいって」

悠理は野梨子の制止にもかかわらず言葉を続けた。怪訝そうにまだ写真と清四郎を見比べている悠理の表情には、受けた傷を思わせる暗い影は見出せない。

文字通り、憑き物が落ちたように、彼女の声は澄んでさえいた。

 

それは、悠理と視線を合わすのさえ苦しげな清四郎と対照的だった。

 

「悠理・・・許してください、とは言いません。だけど、もしものときは、責任を取らせてください」

「もしものとき・・・?」

悠理はきょとんと首を傾げる。その幼い仕草に、清四郎は己の罪を思い知らされる。

「洗浄処置はしましたが、結果は二週間後まで出ないでしょう」

「結果?」

言葉の意味がわからない悠理に対し、野梨子と可憐が顔色を変えた。

 

「もしも、おまえが彼の・・・いえ、僕の子を宿してしまったなら・・・・」

清四郎の口調は苦渋に満ちてはいたが、断固たる決意が込められていた。

 

「堕ろして、ください」

 

非情すぎるその言葉に、皆は絶句した。

 

 

 

 

 

NEXT

 


 ああ、最低・・・。つくづく不快な話で申し訳ない。(平伏)

現在展開中の鬼畜がリクのせいではないことを明らかにするためにも、ここらへんで、あきさんのキリリクを紹介。(笑)

霊に恋した悠理を、現実に繋ぎとめようとする清四郎。もちろんエロありで(ハードなら、なお可)霊の正体は、清四郎に縁のある人物(早世した双子の兄弟とか)だとドロドロしていいですね。』

・・・これは私にとって大層つらいリクでございました。どこらへんがと申しますと、18禁ハード・・・では、無論なく。(爆)”清四郎以外の人に恋する悠理”に、激しい拒否反応が!あああダメなんです。清→←悠でなければ、書けない~!!とゆーわけで、まずは18禁ハードの相手は清四郎に決定。でも憑依された状態でエッチしたら、体は清四郎でも心が違うじゃないですか。これにも拒否反応が。んで、二重人格?幽霊物?な、わけのわからんお話に・・・。もうちょっとお付き合いいただけると幸いです。

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 素材:イラそよ