彼の醜聞 

2.

 

 

清四郎の肌に散った虫刺されに、悠理と野梨子はポカン。魅録と可憐は赤面。

美童はニヤニヤ。

 

「真面目そうな顔して、清四郎も隅に置けないよなぁ〜♪」

「び、美童、誤解です!」

「で、どんな彼女?美人ーーーだよね、清四郎のことだから♪」

少々の嫉妬羨望と堅物だと思っていた友人への落胆もあれど、めずらしい彼の艶聞に、仲間たちは皆、興味しんしん詰め寄った。

「あのですね、これはあなた方の思っているような・・・」

清四郎は汗をかきながら、目を白黒。

”狼狽する菊正宗清四郎”など、めったに見られるものではない。

 

「まったく、困ったもんじゃ。神聖なる寺でこやつは女と乳繰り合いおって」

「和尚!そんな甘い状況じゃなかったのはご存知でしょうが!」

野梨子とともにおっとりがたなでやって来た和尚の言葉に、清四郎は逆ギレ。

「僕は寝込みを襲われたんですよ!」

「そうでなければ、破門ものじゃ」

 

「・・・襲われた?」

「・・・どんな女?」

師弟の会話に、仲間たちが顔を見合わせたとき。

 

「和尚!!破門を解いてくださいませ!」

 

腹の底に響く太い声が、周囲に響いた。

姿を確認する前に、美童の金髪が逆立ち、悠理が身を竦ませる。

 

「おお、モルさんよ。煩悩を断ち切る座禅は終わったかの?」

「もともと、私には煩悩なぞありませんとも!」

ドスドスと足音も高く、元KGBエージェント、かの鋼鉄のモルダビアが現われた。

 

悠理は唯一の安全地帯とばかりに、和尚と清四郎の背後に身を隠す。

野梨子と可憐は抱き合って固まった。

美童は元きた道を全力疾走。素晴らしい潜在運動能力を見せつけ、その場から姿を消した。

「・・・なるほど、襲われた、ね」

魅録が納得して清四郎に目をやった。目一杯同情しつつ。

 

清四郎は美童のように逃げ出しはしないものの、額に汗を滲ませ足を踏ん張り平静を装っていた。

モルダビアに襲われた経験を持つ人間の態度としては、超人的な精神力といえよう。

 

「昨夜のことは、和尚が我々の試合を禁じたので仕方なく、他の方法で勝敗をつけようと挑んだまでですよ!」

モルダビアは一向に悪びれもなく鼻息荒い。

 

「「「他の方法って・・・」」」

清四郎の背中に隠れながら、女子三人の声が重なった。背後から見上げた清四郎の形の良い眉がふるふる震えている。蒼ざめ強張った顔に、どんな恐怖が彼を襲ったのかがうかがい知れた。

 

「青少年の寝込みを襲って裸に剥くのが勝負かのぉ」

「お言葉ですが、立派に男と女の勝負です!」

モルダビアは腰に手をあて、ビシ、と清四郎を指さした。

「清四郎はもう立派に#$%&###@で、○×@%$ですよ。私も手加減は無用かと!」

ロシア語まじりの彼女の弁を理解したのは、美童が逃げたいま、その場では当事者たる清四郎だけだった。

「・・・モルダビア、その勝負はカンベンしてください」

蒼ざめながら赤面するという器用な技を見せつつ、清四郎は嘆息する。

「おや、戦わずして白旗を揚げるとは、清四郎らしくないね。アタシは、いつでも臨戦態勢なんだよ・・・」

男顔負けのいかつい風貌ながら。モルダビアは濃厚な色気と雄弁な欲望を滲ませ、清四郎に流し目をくれた。

舌で唇を舐める。まるで、自らが清四郎の肌につけた痕を舐めるかのように。

 

清四郎は決死の表情で奥歯を噛み締め耐え切ったが、モルダビアの強烈な秋波には、魅録でさえ全身を震わせた。思わず腰がくだけそうになり、彼もまた清四郎の背中の後ろににすすすと身を引いた。

 

「違う勝負のぉ・・・」

和尚もさすがに清四郎に同情したようで、困ったように顎を掻いた。

 

愛弟子はいまや顔色を失くしている。清四郎を支えているのは、彼の背中に隠れるように張り付いている仲間たちに醜態を見せたくはないという、プライドだけだろう。

 

「おお、そうじゃ!」

和尚がポン、と手を打った。

「血を見ず、@@@も見ずに済む方法があるぞ。決闘、といえばほれ、あの方法が!」

わけがわからず首を傾げる一同に、和尚は笑みを向けた。その視線が、悠理に向けられピタリと止まる。

「お嬢ちゃんを捕まえた方が、勝ち、というのはどうじゃ?このお嬢は、ワシにさえこの勝負ではおくれをとらん直弟子じゃからな」

 

「げええっっ」

 

蛙を踏み殺したような悲鳴は、もちろん指名された悠理だ。

「ふむ・・・悠理ですか」

「成る程、只者ではないと思っていたが、和尚の直弟子だとはな」

悠理のパニックにかかわらず、清四郎とモルダビアは、なにやら納得顔。

 

「こ、こら、清四郎、何その気になってんだい!あたいは嫌だじょーー!」

悠理は清四郎の背中から手を放し、飛んで離れた。

「まぁ、そう言わずに」

首根っこを捕らえようと清四郎が伸ばした手を、悠理は避ける。

「あたいを、巻き込むなーー!!」

 

「おや」

モルダビアが楽しそうに眉を上げた。

「和尚の言うとおりのようだね」

悠理の身のこなしに、モルダビアは目を細める。

 

モルダビアの丸太のような腕が、素早く動いた。

「ひええっ」

悠理は身を翻し寸でで避ける。

「そうそう、その調子で逃げてくださいよ♪」

清四郎もすっかり余裕を取り戻し、腕を組んで悠理に声援を送る。

 

「なに静観しているんだい清四郎!これは私とあんたの勝負なんだよ!私が勝てば、和尚の一番弟子の座と、あんたの○×@%$は頂くからね!」

 

ロシア語はわからないながら、清四郎のふたたび強張った表情に、皆にも内容は知れた。

清四郎も腕を解いて、腰を落とす。悠理を真ん中に、モルダビアと清四郎の視線が絡み、火花が散った。

「ひぃぃぃぃんっ」

まさに前門の虎、後門の狼。悠理は泣き声を上げる。

 

お互いを牽制しつつ、双方動かない。仲間たちも、緊迫した状況に、息を飲んだ。

そんな空気を解くように。

「悠理を捕らえた方が勝ち、ね」

清四郎が、ふ、と口元に笑みを浮かべた。

「そういえば、今日は8月末日・・・。簡単ですな」

清四郎は構えを解いて、真っ直ぐに立ち悠理に語りかける。

「悠理、恐がらなくていい、僕のところへおいで」

状況にそぐわない、爽やかな笑顔。広げられた両手。

 

「宿題は、僕にまかせろ!」

 

悠理の泣き顔が、パアアッと輝いた。目には星。

悠理は真っ直ぐに清四郎の胸に飛び込んだ。ひしり、と抱きつく。

「愛してるよ、清四郎ちゃ〜ん!」

清四郎は、しっかりと悠理を抱きしめた。

「よーしよし、良い子だ♪」

 

それは、さながら恋人同士の抱擁。

しかし、もちろん、仲間たちには猿回しと猿の姿にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

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元南中の番長と並んで、MY共感度満点キャラのモルさんになら、清四郎に@@@や@@をしてもいいわん♪と思う私は、清×悠原理主義者として失格でしょうか・・・。こんなにラブ度の低い話は初めてです。萌えないけど、結構楽しいかも・・・。ごめんなさい!(脱兎)

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背景:柚莉湖♪風と樹と空と♪