BY ちなな様
(あぁーあ)
悠理は、昼前の授業をサボり部室にいた。 目の前に置いた、紺色の包装紙とリボンに包まれた小さな箱を眺めている。
今日は2月14日、バレンタインデー。 悠理も朝からたくさんのチョコを受け取っている。
ここまでは毎年変わらない風景−
でも…悠理の前には、生まれて初めて自分が準備したチョコがある。
どうやって渡すか…なんて考えずに選んできた。 だから今になって考えてしまうのだ。
(どうしよ…)
あいつは毎年、直接手渡されるチョコは受け取らない。 知らない間に鞄や机に入っているチョコは、部室に来て悠理のチョコの山へと置かれる。
義理を装い手渡したら、あいつはきっと受け取ってくれる。 でもそんなの意味がない。
(こんなんあたいらしくないよな…) 机の上に顎をのせ、目の前の小さな箱を眺めた。
「悠理、もういたんですか?」 いつの間にか昼休みになっていたようだ。 机の上の小さな箱を慌てて隠す。
「さっきの授業サボりだな」 悠理は何もなかったようにエヘへと笑う。
悠理宛てのチョコはソファーに置かれ山になっている。 「相変わらずすごい量ね」 「しばらくおやつには苦労しませんわね」 「僕って美食家だろ〜こんなにも食べきれないよ〜」 美童宛てのチョコも、悠理のものの隣に積まれる。
なんとなくいつもの気分になれない悠理は、黙々と差し入れの弁当を食べた。
食事を終えた美童は女の子に囲まれ部室を出て行った。 可憐と野梨子は、お茶を淹れなおすためキッチンへと立っていく。 魅録と清四郎は、部室の扉の前でチョコを持ってきた女の子の対応をしていた。
(今しかない) 悠理はとっさに、紺の箱を清四郎の鞄に入れた。
メッセージカードもつけていない差出人のわからないチョコ… 放課後には、悠理のチョコの山に積まれているかもしれない。
(それでもいいや……)
届け方のわからないチョコが行き場のない悠理の想いと重なる。 ちょっと切ないバレンタイン
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背景:Salon de Ruby様