BY ちなな様
今日は3月14日、ホワイトデーだ。
毎年のことだが、朝の校門で五代がkenbishi洋菓子店のクッキーを配っている。 悠理にチョコをくれたお礼だ。(明らかに男女問わず全生徒に配っているが…) 女生徒はキャーキャーと言って喜んでいる。
(そっか…今日はホワイトデーだ) バレンタインのちょっぴり切ない想いがよみがえってくる。
あの日の昼休み、あいつの鞄にこっそりと入れた悠理のチョコ… 放課後いつものように 「皆さんでどうぞ」 と悠理のチョコの山に積まれた中にはなかった。
鞄の中のそれに気付いていないのか…
家に帰って気付いたら…
あいつのことだ、食べずに家族に渡すだろう。 それでも悠理の元に返ってこなかったことに、この想いは救われた。
(あーあ、嫌なこと思い出したな…) 気持ちを伝えたかったわけではない。 そんなことをして、友人としてのあいつまで失うのが怖かった。
「あーあ」 夕方帰宅した悠理は、鞄を床に放り投げた。
カサッ
んっ?
いつもカラの学生鞄、今日は微かな音が聞こえた。 鞄を開けると… 淡いピンクの包装紙に白いリボンの小さな箱が入っていた。
悠理は震える手でゆっくり取り出した。 少し眺めてから、丁寧に包装紙を開く。
小さい花柄の描かれた缶だった。 「…クッキー…だ」
悠理はしばらく缶を両手で持ち固まっていた。 胸が高鳴る。
カードも添えられていないいクッキー…
差出人はわからない…
そうとはわかっていても、溢れ出る涙は止まらない。 涙と一緒に隠してきた悠理の想いも溢れ出す。
悠理は部屋を飛び出した。
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背景:Salon de Ruby様