BY いちご様
ぽんぽん。 ***** 緊急召集をかけ、朝一でみんなが部室に集まった。 清四郎が経緯を説明すると、みんな怒って大騒ぎとなった。 可憐は「許せない、高千穂の奴!!」と握りこぶしを突き上げ、 美童が「サギじゃないの」と騒ぐが、清四郎に言わせると、 契約は正式なものなので、どうにもならないらしい。 あたいは昨日間に合わなかった悔しさが再びこみ上げてきて、 机に突っ伏した。 昨日清四郎が帰ってから気付いたんだけど、 清四郎はどこの大学だって入れる。 いや、うちの学校始まって以来の秀才と言われている清四郎だ。 どこの大学でも来て欲しいと思うだろう。 清四郎だけじゃない、魅録も美童も野梨子も可憐だってどっかの大学には入れるだろう。 もしも・・・、もしもこのまま本当にプレジデントが無くなったら、 みんなとは離れ離れ・・・。 そんなのいやだ。 普段授業なんか聞いてもいないが、無くなるかもしれないと思うと貴重な物に思えてくる。 教室に向う途中で変なおばさんに話しかけられた。 ものすごい厚化粧で、顔を赤くしながらあたいに擦り寄ってくる。 (「な・・・なんだあ、このおばさん?それ以上近寄るなー!」) 迫ってくる顔は幽霊とはまた違う意味で恐ろしい。 口紅をべったりと塗った唇で、至近距離に迫られた。 「清四郎、可憐、なにボーッと見てんだよ。助けてくれぇ!」 清四郎と可憐が動けなかったのは、ある事実に気付いたから。 このおばさんが黒幕だった。 理事長室に案内し、生徒会長である清四郎も一緒に話を聞いた。 「この学校はもううちのもんや。病院を建てるから、はよ立ち退いてもらいましょうか。」 一方的に話を終えるとおばさんは帰って行った。 帰り際、理事長室の前にいたあたいに、 「銀嶺歌劇団のこと考えといてや。」 と言ってまた手を握られた。なんなんだよお・・・。 あんな恐い思いをしたのは初めてだ。 「こわかったよお・・・」 恐怖がさめやらぬあたいは、清四郎に縋りついた。 清四郎は「よしよし」と、背中をぽんぽんとたたきなだめてくれる。不思議と安心する清四郎の手。 まるで、安全地帯だ。 ずっとそうしていたかったけど、魅録が変な顔をしているのに気付き、すぐ離れた。 あんなおばさんに学校を取られてたまるもんか。 「学校取り戻すためだったら、なんだってやるぞ。」 不可能を可能にするため、あたいたちは動き出した。 が、いろいろ調べが進むうちに、話が変な方向に流れ出した。 高千穂病院の内情をさぐるため、誰かが入院する必要があると言う。 確かに何でもするとは言ったけど。 こんな健康体のあたいが入院なんてありえない。 「人間ドッグでもいいんですけど・・・。 相手は随分、僕達のことを調べてきています。人間ドッグだったら菊正宗病院に行かないことを怪しむと思うんですよ。」 確かにそうだった。 可憐やピーターのことはもちろん、清四郎のことも知っているような口振りだったっけ。 「高千穂病院は腎臓移植にかなり力をそそいでいるようなので、ここはやっぱり、腎炎にでもなってもらいましょうか。」 にこやかに言う清四郎には逆らえない。 「食べて寝ていればいいだけだから。」と清四郎に言われ、渋々引き受けた。いや、あたいに選択の余地は無かった。 父ちゃんと一緒に高千穂病院に行くと、玄関で院長に出迎えられた。 あたいはすかさず父ちゃんの後ろに隠れる。 でも清四郎が 「妙な態度を取って、怪しまれないようにして下さい。」 って言ってたから、手を握られて頬擦りされても我慢した・・・。 気持ち悪くて、ショック死しそうだ。 おまけに尿検査の時に入れる卵の量を間違えたらしくて再検査になっちゃうし・・・・。 だから、あたいに難しいことさせるなって言ったのに。 おまけに清四郎のやつ、 食事が少ないってあたいに教えなかったなー。 その上、まずい!! やっぱりあいつは意地悪だ。 腹が減って眠れない。こんなとこいたら病気になっちゃうよお。 入院して2日め、面会時間にみんながやって来た。 待ちに待った差し入れに、涙を流してほお擦りした。 ところが、その差し入れを頬張っている時に、 院長が来てしまい、せっかくの差し入れも没収された。 がっくり。 清四郎が棺桶に一番近い病院だって言ってたっけ。 ほんとにあたい、学校取り戻せるまでもつんだろうか? あたいが仕掛けた盗聴器のおかげで腎臓移植の数が多かった理由が解り、みんなで確認に行った。 それが本当なら違法どころでは無い。 それからは入院しているあたいは何がどうなっているかわからなかったが、数日後、清四郎がやって来た。 「悠理、もう少しの辛抱です。 高千穂哲郎と久保田先生を味方につけることが出来ました。 もうちょっとしたら、悠理の具合が急に悪くなった事にして、 院長に移植の話を匂わせます。 本当に悠理が手術室に行かない様に、久保田先生に手配を頼んでありますから。もう少し、大人しくしていてください。」 「ん、わかった。でも、なるべく早くしてよ〜。あたいこんなとこ入院してたらホントに病気になるよー。」 「はいはい。」 清四郎はいつものように頭を撫でてくれた。 そして、高千穂哲郎と久保田医師の協力と万作氏の名演技も手伝って、有閑倶楽部は無事学園を取り戻すことが出来た。
|
背景:素材通り様