BY お馬鹿シスターズ
前編
爽やかな目覚め、とは言い難い朝を清四郎は迎えていた。 頭が酷く痛み、胸がむかつく。 昨夜は確か、秋祭りに倶楽部の皆で繰り出し、その後剣菱邸で悠理の父母も交えての大宴会となったのだった。 東北の蔵元から届いたと言う名酒を出されて、皆で浴びるほどに飲んだのだ。 二日酔いになるのもむべなるかな…と思いながら清四郎は身を起こして頭を振った。 シーツが身体から落ち、肩がひやりとする。 「……?」 慣れぬ感触に、清四郎は眉をしかめた。 衣服を何も身につけていない?それに…ここはどこだ?
自分の部屋でも、剣菱邸でいつも泊めてもらう部屋でもない。 呆れるほどに広いベッド、垂れ下がる天蓋。 これは……悠理のベッドではないのか? はっと隣を見る。 そこには、すやすやと寝息を立てている…と言えば聞こえがいいが、だらしなく笑みながら涎をたらして眠る悠理の姿があった。 さーっと清四郎の身体から音を立てて血の気が引いていく。 先程の感触からすると、自分は裸だ。それに… 清四郎はそっとシーツをめくって自分の下半身を覗き見た。 いつもの朝なら健康な成年男子らしく、その存在を主張している彼の"息子"が、くったりと満足げに萎れている。 まさか…… 清四郎は恐る恐る悠理を窺った。 女らしさのかけらもなく、広いベッドの真ん中に大の字になっているその姿。 はだけたシーツからは、華奢な肩が剥き出しになっている。 どうやら、悠理も服を何も着ていないらしい。 清四郎の目の前が真っ暗になった。 まさか…まさか自分は、昨夜無意識のうちにこの性別未確認物体の性別を確認してしまったと言うのだろうか? まさかそんな……
「う…ん」 思い悩む清四郎の前で、爆睡していた悠理が身じろぎした。 「ふわぁあああ」 大きなあくびと共に、悠理が起き上がった。 シーツがはらり、と身体から落ちる。 「んーん。あれ?」 眠そうに目をこすり、悠理は目の前で茫然自失の友人の姿に気がついた。 「せいしろー?何でここにいん……わっ、わわっ!」 慌ててシーツを掴んであるかなきかの胸を隠す。 「な、何やってんだよっ!おまえっ!」 二日酔いのところを大声で叫ばれ、清四郎は頭を抱えた。 「もう少し小さな声でしゃべってくれませんか?何やってるって…僕が聞きたいですよ」 清四郎の答えに悠理はぽかんと口を開けた。 が、急に何かに気がついたかのような顔になり、その視線がそろそろと自分の下半身に向かう。 泣きそうな視線が、また清四郎に向けられた。 「せーしろー、あたい何か…アソコが痛い」
あからさまな悠理の物言いに、清四郎の頭がガクンと落ちた。 「せーしろー、なんかした?」 「なんかって……」 ”セックス”と言いかけて、そのあまりに直接的な言葉に清四郎は抵抗を覚えた。 何と言うべきだろうか?性交、情交、姦淫、淫行、乱交……最後は違うか。様々な言い方が清四郎の頭を駆け巡る。 「その…僕達は、いわゆる”男女の契り”を交わしてしまったようです…」 「あたいたち、ヤっちゃったの?!」 清四郎の気遣いを無にする悠理の直接的な表現に、清四郎の頭が再びガクンと落ちた。
ヤッたかどうかは、自分の下半身が一番知っていることで―― 残念ながら、清四郎のそこは、明らかな情事の痕跡にくったりと萎れていた。 しかも、自分のものではない分泌液が、太股を濡らしている。
ヤッて、しまった。
清四郎は、そのまま卒倒しかかった。
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清四郎は、持てる忍耐力を総動員し、懸命に失神を堪えた。 ここで悠理を残して全裸のまま大の字で気絶し、家族や使用人を呼ばれたらかなわない。 そう、責任問題が、間違いなく、発生する。
予想されうる未来図が、清四郎の脳内を高速で過ぎた。 「せ〜しろ〜」 悠理がハチの字眉で、肩をゆすった。 暗澹たる未来に思いを馳せ、結局、一瞬だけとはいえ気を失っていたらしい。
ヤッて、しまった。
性別未確認なだけでなく、いまだ底の見えない抜けた頭脳と、食欲、その上とんでもないトラブルメーカーの悠理と。 この猿で犬で少年ケニアな悠理に、”モヨオシタ”らしい昨夜の己が信じられない。
「悠理・・・本当に記憶がないのですか?」 「うん。おまえも?」 頷く悠理の顔に、ふと目を留める。 濡れて光る口元。 清四郎の目はぬらりと濡れた口に吸い寄せられる。おとがいに指をかけ、顎を上げさせた。 「こ、これは・・・」 「な、なに?」 困惑顔の悠理の口の端についているのは、彼女の髭でなければ・・・・ 清四郎は、悠理の口元に手をやり、付着していた毛をつまんで確かめた。 彼女の薄い色の毛ではなく、漆黒の太い毛。しかも、縮れている。 そして、悠理の口の周りのベタベタ濡れた液体は、たんぱく質。
「もしや・・・未遂?」
清四郎の胸に、一抹の希望が生まれた。 不純異性交遊、一夜のアヤマチ。 その事実は動かしようがないが、ナニをアソコにナニしたのと、口腔性交では、今後発生する責任問題は天と地の差。 証拠隠滅も、可能! 清四郎は己の縮れ毛を宝物のように掌におさめ、思わず拳を握りしめた。
「清四郎、あっちこっち痛いんだけど、サロ@パス持ってる?」 悠理が上掛けで体を覆ったままながら、行儀悪く胡坐の足をさすった。 「サ@ンパス・・・は、ないですが」 しかし。 悠理は、アソコが痛い、だのなんだのほざいていなかったか。しかも、自分の内股に付着する体液も剣呑だ。
清四郎の希望に影が差した。 「どこが痛いんですか?ちょっと診てあげましょう」 ベッドの上をずずいと進み、清四郎は悠理をコロンと転がした。 「ふぇっ?!」 悠理が奇声を上げるが容赦なく、下肢からシーツを引き剥がす。そして、すべすべした足に手を這わせ、指先をなおも奥深く進めた。
悠理の魅惑の花園へ。 すでに済みマークがくっきり印字されているかどうかを、確認するために。
指先で柔らかな割れ目を探ると、濡れた感触。 「あ、あん・・・」 悠理が鼻に掛かった声を出した。
「む!」 清四郎の眉根に皺が寄る。 濡れた場所は、すんなり指先を受け入れた。しかし、まだほんの先っぽ。まだ、過去侵入があったか否かはようとして知れず。
「あ、や、やん・・・」 悠理がイヤイヤと身悶えた。しかし、抵抗と言うほどではない。 胸元で申し訳程度にシーツを掴んでいるが、ポロリと小さな乳房がこぼれ見えている。 その先の色づいた果実に目を吸い付けられながら、清四郎は指で悠理の奥を探った。
白い胸に散った、明らかな愛咬のあと。
清四郎の胸に生まれた希望が、ますますしぼんで行く。反対に、満足げにけだるく脱力していた彼の息子は、徐々に元気を取り戻しつつあった。
彼の意思とは、反対に。
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