昨日見た夢

BY にゃんこビール様

 

 『ふたりの思い出を増やしていきましょうね』

 

香港の夜景を見ながら悠理に清四郎が言った。

いつも叱られたり、意地悪を言ったり、皮肉を言ったり、人のことバカにするのに

そのときの清四郎の顔はとても優しかった。

悠理は小さい頃から探していた大切なものを見つけたようでとても嬉しかった。

とても嬉しかった…ただそれだけ。

 

『悠理…悠理…』

清四郎!どうしたの?

『悠理はひとりでも大丈夫か?』

うん、そりゃ大丈夫に決まってるじゃん。

『そうか。それじゃ僕がいなくても大丈夫だな。』

へ?う…ん。大丈夫…だけど。

『悠理…僕は行かなくてはなりません。』

行くって、どこに行くの?

『それじゃ、もう行きますね。』

だから、どこに行くんだって聞いてんだろ!

『悠理。さようなら。』

さようならってなんだよ!おいっ、清四郎!清四郎!

 

「せいしろう…」

悠理は自分の声で目が覚めた。

また同じ夢…これで3日目だ。

香港から帰ってきてから同じような夢ばかりを見ている。

清四郎がどこかに行ってしまう夢。

最後に『悠理、さようなら』と言う夢。

だからといって悲しそうでも、寂しそうでもない。

夢の中の清四郎は至っていつもと同じ清四郎だった。

何ともすっきりとしない目覚めに1日悠理は清四郎を観察した。

1日目、清四郎の身に何かあるかと心配したが別段変わりがない。

2日目、清四郎がどこかに出掛ける様子もなさそうだ。

いつものように野梨子といっしょに登校して、

授業を受け、生徒会長として仕事をこなし、

部室ではみんなの話を聞き、笑い、またに話をして、

学校を出れば何かの会合だ、研究会だと忙しそうである。

いつもと同じ菊正宗清四郎だった。

今も部室でいつもの席に座り、何誌目かの新聞に目を通している。

悠理は清四郎の前に座ってテーブルに顔を乗せて清四郎を見つめていた。

そんな悠理の視線に気が付いた清四郎は新聞からちょっと顔を上げ、

みんなに見えないようにふっと優しい笑顔を悠理に投げた。

「何だか最近、元気がないわね。」

可憐がコトンと悠理の目の前にコーヒーカップを置いた。

「ありがと」

短く可憐に礼を言ってテーブルから少し赤くなった顔を上げた。

「そういえばお弁当もあまり召し上がらなかったですわね。」

そう言いながら野梨子はおやつのロールケーキを切り分けていた。

「確かに3人前で終わっちゃったよね。」

美童は携帯でメールを打ってる手を止めた。

「授業中も大人しいし、どっか具合でも悪いのか?」

ギターを置いて魅録が悠理の隣に座った。

みんなの問いかけに答えず悠理はコーヒーを一口飲んでカップを置いた。

「ねぇ… 清四郎。」

「なんです?」

新聞をたたみながら清四郎が返事をした。

「あたい、最近ずーっと清四郎の夢見るんだよ。」

悠理に発言に清四郎は手が止まった。

もちろん4人も悠理の顔を一斉に見た。

「やっだぁ〜、悠理ったら寝ても覚めても清四郎のこと考えてるってこと〜?」

「道理でずーっと清四郎のこと見てると思ったよー。」

可憐と美童がきゃいきゃいと騒ぐ。

「わかった。夢の中でも清四郎にしごかれてるんだろ!だから元気ないんだ。」

ぽん、と魅録が手を叩いた。

「もうすぐ期末試験ですものね。」

野梨子がロールケーキを悠理の前に置いた。

だが悠理はぶんぶん首を横に振った。

「必ず最後に『さようなら』って言ってどっかに行っちゃうんだよ。」

騒いでいた美童はぴたっと止まった。

「…そっ、それって、予知夢?」

予知夢騒動の一番の被害者である美童はさーっと顔が青ざめた。

悠理はまた首を横に振った。

「違うと思う。香港から帰ってきてからずーっと見てるんだもん。」

「やだー、もしかして清四郎死んじゃうの?」

あっけらかんと可憐が叫んだ。

「死にませんよ!」

清四郎はムッとして叫んだ。

「そうですわよ。縁起でもない!」

野梨子にもピシャリと怒られた。

「そうよね。ごめん、ごめん。」

可憐はあははははっと笑って誤魔化した。

「そうなんじゃなくってさ〜」

ポリポリと悠理は頭を掻いた。

「あたいたちにナイショでどっか楽しいところに行くつもりとかさ…」

「そんな予定あるのかよ、清四郎。」

「清四郎は秘密主義者ですものね。」

魅録と野梨子はじーっとポーカーフェイスの清四郎の顔を伺った。

「いや。今のところそう言った予定はないですが。」

清四郎は別に嘘をついている感じもなく、普通に答えた。

「でもさ、そんな夢にまで清四郎が出てくるなんてそれでけ清四郎のこと考えてるって

 ことだよねぇ。」

にんまりと美童は隣の清四郎に笑いかけた。

「そうよ!悠理って一途なタイプだったのねぇ〜。よかったわね、清四郎!」

可憐は清四郎を肘で「このこの〜」と突いた。

ふたりに冷やかされて清四郎は顔を真っ赤にした。

「ふたりともいい加減にしないと痛い目にあいますよ!」

もう仲間たちに担がれるのは御免だ。

「でもさ、最後にどっかに行っちゃうんだぜ。そこがなぁ…」

盛り上がっているところを魅録に水を差され、可憐はキッと睨んだ。

小声ですいません…と謝り、魅録はコーヒーに口を付けた。

「ねぇ、ねぇ。清四郎の夢にもあたい出てくる?」

悠理は美童と可憐の盛り上がりに輪を掛けるような発言をした。

「ねぇ、どうなのよ、清四郎!」

悠理に変わって可憐が清四郎に詰め寄った。

「いや、その、元々あまり夢は見ない方なので…」

可憐の勢いにたじたじと清四郎が答える。

「あら、香港に行く前の日は見たんじゃありませんでした?」

野梨子はにっこりと清四郎に微笑みかけた。

確かに香港に行く前に、悠理に婚約者を紹介されると思い込み(思い込まされ)、

悪夢に魘されたことがあった。

「え?なに?それ聞いてないぞ。」

悠理も食いついてきた。

「なんでもありません!とにかくですね、僕はどこかに出掛ける予定はありませんから!」

清四郎は両手で攻めてくる仲間たちを制止した。

そのとき、部室のドアをノックする音がした。

はい、と野梨子がドアに行くとすらりとした長身にストレートの長い黒髪、

小顔の美人な女の子が頬をピンクに染めて立っていた。

本能的に美童が髪の毛をかき上げつつ、すっと椅子から立ち上がった。

「はい、僕にご用?」

「いいえ… その… 菊正宗先輩に…」

美童がムッとしたのと同時に清四郎が立ち上がった。

「僕ですか?」

テーブルに座ったまま魅録、可憐、そして悠理がその様子を伺っていた。

「これ、私が作ったんです。ぜひ菊正宗先輩に召し上がって頂きたくて…」

すっと出されたのはケーキとおぼしき綺麗な箱だった。

「僕に?」

「はいっ!」

女の子は顔を真っ赤にしてすっと清四郎の胸に箱を差し出した。

そんな女の子の様子を見て悠理まで胸がドキドキした。

清四郎に告白する女の子なんて何十回も見ているのにこんな気持ちになったのは初めてだ。

「申し訳ないですが、すべてお断りしてますから頂くことはできません。」

清四郎の体裁よく断る言葉に女の子の瞳にみるみると涙が浮かんできた。

見ていた悠理まで切ない気持ちになってきた。

清四郎が断った女の子なんて何十回も見ているのにこんな気持ちになったのも初めてだ。

「わたくしたちにもお裾分け頂いてよろしいですの?」

野梨子がにっこりと女の子に助け船を出した。倶楽部のみんなにと言えば清四郎も断れない。

「はい、もちろんです!!」

「そうですってよ。清四郎。」

「そうですか。そういうことなら、遠慮なく頂きます。」

清四郎もにこっと微笑んで女の子から箱を受け取った。

ありがとうございます、とペコリと頭を下げて女の子が立ち去った。

「2年生の天海加那ちゃんだよ、新体操部のエース。」

ふて腐れながら美童が教えてくれた。

「よく知ってるなー…」

関心している魅録に美童は当たり前だよ、とプリプリしている。

「どんなケーキなのかしら。」

可憐が箱を開けると抹茶のシフォンケーキがいい香りで現れた。

「清四郎が甘いもの苦手って知ってますのねぇ。」

シフォンケーキ、それも抹茶なら甘いものが苦手な清四郎にも口にしてもらえると考えたのだろう。

「みんなで頂くってことで受け取ったんですからみんなも食べて下さいね。」

受け取った清四郎はため息まじりで言った。

いつもなら誰が受け取っても大喜びする悠理がじっとケーキを見ている。

「どうしたの?悠理もシフォンケーキ好きじゃない。」

「おいしそうですわよ。」

可憐と野梨子は早速シフォンケーキを切り分けようとしていた。

「だって… これって清四郎にくれたんだろう?」

悠理はちらりと清四郎を見た。

「それなのにみんなで食べちゃっていいのかなぁ…」

いつもの悠理らしからぬに魅録は呆れた。

「何言ってんだよ。いつも一番にがっつくくせに。」

美童も不思議そうに悠理の顔を見た。

「やっぱりどっか具合悪いんじゃない?」

清四郎が悠理の顔を覗き込んだ。

「一体どうしたんです?」

清四郎は心配そうに、そしてとても優しく悠理のことを見つめている。

悠理は清四郎からケーキへと視線を移した。

有名なパティシエが作るケーキよりも断然においそうだ。

好きな人のために作ったケーキだからおいしそうなのは当たり前だ。

「…そうだよな、ケーキに罪はないもんな!」

悠理は心配そうに見ている清四郎に作り笑顔を浮かべた。

「そうですわよ。」

野梨子も笑って一番大きく切ったケーキを悠理に渡した。

「はい、天海加那ちゃんの愛情たっぷりケーキよ。私たちもお裾分け頂きましょう。」

茶化しながら可憐がケーキをみんなに配った。

「「「「いただきま〜す。」」」」

一口、口に含んだシフォンケーキは今まで食べたどこのケーキよりもおいしかった。

清四郎に対する愛情がそれ以上においしくしているみたいに。

 

『悠理… 悠理…』

清四郎!お前またどっかに行くって言うのか?今日どこにも行かないって言っただろう!

『ええ。どこかに出掛ける予定はありませんよ。』

なのに何だよ。

『ただ…』

ただ…?

『悠理のそばにずっといることができません。』

そばにいられないって?何だよ、それ。

『どんなに遠くに離れても悠理が呼べば僕はいつだって駆けつけますから。』

遠くって…やっぱどっかに行くんだろ!どういうことだよ!

『そろそろいかなくてはなりません。』

行かないって言ったじゃないか!!

『向こうに待っている人がいるんです。』

待ってる人?どういうことだよ、清四郎。

『さようなら、悠理』

待ってよ!清四郎!

あれ…天海加那ちゃん?

待っている人って加那ちゃんこと?待ってよ、待って!

 

ひっく…ひっく…

目覚めた悠理は泣いてた。

また夢の中で今までと同じように清四郎は『さようなら』と言って行ってしまった。

でも今日は清四郎を待っている人がいると言った。

清四郎が向かった先には天海加那ちゃんが微笑んで立っていたのだ。

もしかしたら天海加那ちゃんじゃなかったかもしれない。

清四郎の行く先には、清四郎の好みをよく知っていて、

清四郎のために何でもできる女の子だったのかもしれない。

清四郎はどこにも行かないって言ったけど、誰のところにもいかないとは言わなかった。

何十回も清四郎が女の子に告白されたところを見ても平気だったのに。

何十回も清四郎が女の子に断るところを見ても平気だったのに。

今は夢でも清四郎が他の女の子のところにいくだけなのにこんなにも胸が苦しい。

今まで何度も感じてきた劣等感。

野梨子のように頭もよくない、お淑やかでもない。

可憐のようにスタイルも抜群じゃない、料理もできない。

自分は女性として生まれたのになんの取り柄もない。

いつもいつも清四郎を怒らせて、困らせて、甘えてばかりの自分。

 

『どんなに離れても悠理とは必ず会えそうな気がしますよ』

 

『どんなに離れたって悠理のことはちゃんと見てますからね』

 

清四郎が言った言葉が頭の中をぐるぐる回った。

あのとき、清四郎に認めて欲しくって頑張ろうと思った。

あのとき、清四郎はどこにいてもずっと見守ってくれると思った。

だけど今は違う。

清四郎にずっとそばにいて欲しい。

清四郎のずっとそばにいたい。

「あたいの… 嘘つき…」

なんて自分はこんなにも分からず屋で、自己中心で、我が儘なんだろう。

悠理はそんな自分が情けなくて、弱くって、イヤになった。

うえっ…うえっ…

悠理は声を上げて泣いていた。

 

悠理はその日、学校を休んだ。

ここ何日か悠理の様子が変だったが学校を休むとはみんな驚いた。

放課後、悠理のところに行こうとしたのだが、可憐が清四郎ひとりで行った方が

いいと言った。

結果、清四郎ひとりで悠理の部屋を訪ねた。

「悠理、大丈夫ですか?」

部屋には悠理の姿はなかった。

「悠理…?」

テラスの窓が開いている。

カーテンが風になびき、人影か見え隠れしている。

そっと清四郎が近づくと悠理がタマとフクを膝の上に乗せて夕焼けを眺めていた。

「そういえば清四郎っていつでも助けてくれたよなぁ。」

清四郎は黙って聞いていた。

「清四郎がずっとそばにいるのって、当たり前だと思ってたんだ。」

ふぅと悠理はため息をついてタマとフクの頭を撫でている。

「ずっと… あたいの隣にいてくれるって…」

悠理は天を仰いだ。

まるで涙がこぼれないように見える。

「何だかあたい… すごい自分勝手だよな…」

タマとフクをぎゅっと抱きしめた。

悠理の肩越しに清四郎がいるのに気が付ついたタマは「にゃーにゃー」と鳴いた。

え?と悠理が振り返ると少し不機嫌そうな清四郎がテラス口に立っていた。

「日が暮れる時間帯は冷えるというのに、お前は風邪引きたいのか。」

驚いた悠理は急いで前に向き直った。

「い、今、部屋に入ろうと思ったんだよ!」

「…ったく、人の気も知らないで… 勝手なことばかり…」

清四郎はぶつぶつと文句を言っている。

本能的に怒られると思った悠理は道連れにすべくタマとフクを強く抱きしめた。

「悠理。」

頭上から振ってくる清四郎の声は夢の中と同じ。

今日見た夢を思い出して悠理はぎゅっと目をつぶった。

より一層強く抱きしめられ、タマとフクは腕の中で暴れている。

「悠理…」

突如、近くで聞こえた声に悠理はそっと目を開けた。

清四郎は悠理の目の前にしゃがんでいた。

さっきまで眉間にしわを寄せて不機嫌そうだったのに、目の前にいる清四郎は

とても穏やかな表情だった。

「僕はずっと悠理のそばにいます。」

そっと清四郎は悠理の手を包んだ。

長いこと外にいたのだろう。悠理の細い指先は冷え切っていた。

「他の誰のところにもいきません。」

武道をしているとは思えないほどしなやかな清四郎の手から温かさが伝わってくる。

悠理の腕の中にいるタマとフクも大人しくなって清四郎の顔を見上げている。

「…せいしろぉ」

悠理の瞳に涙が貯まって、目の前にいる清四郎が滲んで見える。

「あたい… 頭悪いし、お行儀悪いし、胸だってないし、料理とかでないし…」

ぽろり、と悠理の瞳から涙がこぼれた。

「悠理…?」

清四郎は悠理の頬に流れた涙をそっと親指でぬぐった。

「それに… 清四郎の… 好きなもの… 知らないもん。」

ぽろぽろと涙を流している悠理は飼い主とはぐれてしまった子猫のよう。

清四郎は薄茶の悠理の瞳をじっと見つめた。

「僕の好きなものはひとつしかありません。」

「…?」

「悠理。」

「え?」

「僕の好きなのは悠理です。」

悠理の涙が止まった。

「僕の好きなのは目の前にいる今の悠理です。」

にこっと清四郎は微笑んだ。

「清四郎…」

「だからこれからもずっと悠理の隣にいさせて下さい。」

清四郎は悠理の瞳を覗き込んだ。

悠理は全身の力が抜けていくようで涙がどんどん溢れてくる。

タマとフクは緩められた悠理の腕からすり抜け、部屋の中へ入っていった。

「清四郎のそばに… あたい… いても… いいの?」

涙が流れる合間につぶやく悠理をそっと清四郎は自分の胸に抱き寄せた。

悠理が流す涙は清四郎の胸にすべて吸い込まれていく。

清四郎は安心させるように優しく悠理の頭を撫でた。

「当たり前です。」

悠理は泣きやみ、清四郎の顔を見上げた。

「悠理、僕のそばにいてくれますか?」

悠理が見上げた清四郎はとても優しい顔をしていた。

香港で悠理に話してくれていたときのように。

「…うん」

悠理は小さく頷いた。

清四郎は悠理の手を握って隣に座り、悠理の肩を抱き寄せた。

悠理は清四郎の肩にそっと寄りかかる。

ただ清四郎に寄りかかっただけで悠理の心はどんどんと温められていった。

さっきまでの不安で震えていたのが嘘のように。

「悠理。」

「うん?」

「この前、香港で悠理に言ったでしょう?運命は生まれる前に決まっているって。」

姻縁石の前で清四郎が言ったことを悠理は思い出した。

「僕が悠理と出会って、こうやって隣にいるのは生まれる前から決まってる運命なんですよ。」

「運命?」

悠理は清四郎の顔を見た。

「そう。僕はどうしても悠理のそばから離れることができません。

それとも悠理は僕がずっとそばにいたらいやですか?」

清四郎はにこっと悠理に笑いかけた。

「いやじゃないよ!」

悠理は清四郎の肩から勢いよく離れた。

「本当に?」

「だって、清四郎のことすっ…」

清四郎のことが好き、と口にしようとして悠理は顔が真っ赤になってしまった。

「僕のこと?」

清四郎は悠理の顔を覗き込んだ。

悠理の口から聞きたい、好き、と。

至近距離で清四郎に見つめられて悠理はぐっと詰まり、顔をそらした。

「…いやなわけ、ないじゃないか。」

ぽつりと悠理がつぶやいた。

清四郎はにっこりと微笑んで肩に回した腕で悠理の頭を自分の肩に抱き寄せた。

「好きです、悠理。」

悠理も清四郎の頬に頭をすり寄せた。

「あたいも。清四郎のこと好き。」

だんだんと空の青が濃くなってきて長い秋の夜が始まる。

今夜はどんな夢を見るのだろう。

悠理はもう清四郎から『さようなら』と言われる夢は見ないだろう。

悠理の手はこうやって清四郎と繋がっているのだから。

「清四郎… 本当に清四郎の夢にあたい出てこない?」

悠理は顔を上げた。

「そりゃ、もちろん。出てきますよ。」

清四郎はにっこりと微笑んだ。

「そっか…」

くふふっと嬉しそうに悠理は笑って清四郎の肩に頭を乗せた。

清四郎は悠理の髪の毛にキスを落とした。

「そういえば香港行く前に見た夢ってどんなの?」

「それはまだ話せませんね。」

「何だよ、清四郎の意地悪〜。」

笑い合ってるふたりの頭上の秋の夜空にはペガサス座が輝き始めた。

前足を高く掲げ、翼を大きく広げて、まるでふたりの前途を祝福しているように。 

 

 

 

 

end

ちょっぴりおまけ

 

あとがき

 香港シリーズ、第3弾!なのですが舞台は香港ではありません。

 気が付けば「好きだ」と言ってないじゃないか、清四郎!

 「好き」と口に出さなくては相手には通じないんだぞ。

 O型の私からAB型の男に対しての経験談でした。

 

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