秋の味覚
BY お馬鹿シスターズ
〜秋刀魚編〜
剣菱家の広大な庭に、有閑倶楽部の面々は集まっていた。 “秋の味覚その3”を味わう為に。
これを味わうには、やはり七輪で焼くのが一番。 だが、住宅密集地でやっては「すわ火事か」と通報されかねない。 脂ののった秋刀魚を、煙・匂いとも問題なく思う存分焼く為には、剣菱家の庭ほど適切な場所はなかった。 もちろん、七輪を所有しているのが剣菱家だけであったという事情もあるのだが。 納得。
さて、本日手に入れた秋刀魚は、北海道は釧路産のもの。 もちろん、漁船まるごと剣菱家所有のものである。 大量に水揚げされ市場に出回る秋刀魚と違い、これらは一匹500円もする高級品。
それをこれから焼くのだが。
なにやら秋の味覚に恐怖を抱くようになってしまった魅録が使い物にならず、美童は生の魚になど触れられないというので、清四郎は仕方なく一人で焼く係りを任されていた。 こういうアウトドアでの料理に女性は不向き。 よって、可憐、野梨子も手は出さない。 かといって、妙に楽しそうな悠理にまかせいては真っ黒こげ。 後で、食べるところないじゃんかーと機嫌を損ねてしまうのも、夜のお楽しみのため避けたい。 自分ひとりだけ、モクモクと上がる煙に目を痛めながら秋刀魚を焼くなんて理不尽だ、と思いつつ清四郎は作業にいそしんでいた。 ピカピカ光る秋刀魚の尻尾を持ち上げ、いい塩梅になった炭火の上におく。
ぼ〜〜〜っという音とともに、落ちた脂に火がつくと香ばしい匂いがしてきた。 「うまそぉ〜〜♪」と隣で団扇を扇ぐ悠理の肩が清四郎に触れる。 はしゃぐ悠理の姿が微笑ましかった。
清四郎はその笑顔に見惚れながら、目の前にある秋刀魚に目を移す。
初物。 水揚げされてから数時間でここに到着した最高鮮度の一級品。 透き通るように青く光輝く姿。 尻尾の部分を持つと小刀のようにピーンとハリのある肢体が美しい。 今は、焼いているが、きっと生で食べてもおいしい。
そこまで思いをめぐらし、ふと悠理を初めて抱いた時を思い出した。 初物・・・まぎれもなく初物であった。 水揚げ・・・してしまった。自分が。 透き通るように光輝く姿・・・今でも感動する悠理の白く美しい肌。 小刀のようにピーンと伸びる、達する時の悠理の美しい肢体。 焼き尽くされるような熱い時間も、全身に愛撫する生々しい時間もおいしい。
ああ!悠理!
「清四郎、もうそろそろ焼けまして?」 野梨子が秋刀魚をのせる皿を持って、庭に準備されたテーブルから駆けてきた。 他のメンバーは、のん気に酒を飲んでいる。
「悠理!」 近づく野梨子を背に、清四郎は悠理の腕を掴むと立ち上がった。 「な、なんだよ。急に」 「秋刀魚よりおいしいものが食べたくなりました」 「え?おまえまだ今日何か用意してるの?」 悠理は、秋刀魚以外の味覚に心を躍らせ、目を輝かせる。
「初物の悠理も美味しかったですが、熟した悠理もおいしいでしょう。ほら、柿だって熟した方がおいしいじゃないですか。秋刀魚の前に柿を食べさせてください」 「なぬ?」 清四郎が有無を言わせぬ勢いで悠理を脇に抱えると、くるりっと向きを変えた。
「あ、野梨子、そろそろ焼けてますから皿に乗せて持って行ってください」 「清四郎、悠理を連れてどちらへ?秋刀魚は?」 野梨子の言葉に答えもせず、清四郎は屋敷の中へ悠理を連行していった。
「むむむむむっ!清四郎の阿呆ぉ〜〜秋刀魚食わせろ〜〜〜」 「柿が先です」 二人の声は、煙から離れている仲間には聞こえない。 悠理を抱えてもぞもぞと妙な走り方をして去っていく清四郎に、野梨子は首をかしげた。
「あれ、二人は?」 「何よぉ、最後は野梨子におしつけてどこに行っちゃったのよ、あの二人」 野梨子は、秋刀魚をのせた皿を魅録に渡しながら言う。
「なんでも、秋刀魚の前に柿を食べたくなったそうですわ。初物もおいしかったけれど、熟した方がおいしいって。それと悠理とどう関係があるのかしら」
魅録が、ぼとり、と皿ごと秋刀魚を落とした。
ちゃんちゃん♪・・・お次は
芋芋芋!

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