悠理の一番の楽しみ、ケーキに関しては意見の相違で躓いたふたりだが。 イブの夜をふたりっきりで過ごす予定を、変更したわけではない。
クリスマスムード高まる12月の休日、ふたりはショッピングに出掛けた。 ツリーの飾り付け用オーナメントを購入するためだ。 家族連れやカップルでにぎわう街で、そっと手と手を絡め。 悠理は、嬉々として人形やモールを選ぶ。 清四郎は、はしゃぐ悠理を優しく見つめる。 イブの夜、ホテルの部屋での楽しい時間を想像し、見詰め合ったふたりの顔に笑みが浮かんだ。 当然ながら、ふたりの思惑は少々の差異はあったのだけど。
悠理は両手で抱えきれないほどのオーナメントを買い込んだ。 「そんなに大きなツリーじゃないですよ?」 「じゃ、部屋も飾り付けるよ!」 清四郎も大きな紙包みを抱えている。悠理と一緒に選んだ、クリスマスキャンドルだ。 ツリー型天使型などいろいろあったが、清四郎は一番オーソドックスな細長いテーパー型を購入した。 銀のキャンドルホルダーと、赤と白のキャンドル。 悠理はサンタ型やお菓子の家型などを推したが、すでにそれらオーナメントは買い込んでいる。 『キャンドルの中でも一番認知度が高く、いろいろなシチュエーションでつかわれるキャンドルなんですよ。いろいろなキャンドルを試した後は、こちらのキャンドルでシンプルに楽しんでみては。』 しっとりとした雰囲気も欲しいな、と思っていたところ店員にそう薦められ、清四郎が選んだ。
蝋燭のほのかな灯かりに浮かび上がる、悠理のほっそりした肢体。 真昼の光の中では健康的に輝く瞳も、夜の闇と星を宿し、艶めいて光る。 ふたりきりの聖夜を思うと、期待に胸が疼いた。
しなやかな体は、抱きしめると柔らかくとろけ始める。 清四郎が彼女を欲する熱で、悠理を溶かそう。 彼の指と唇で、とろとろに滴るほどに。 彼女が懇願し彼を求めるまで、焦らし続けよう。 キャンドルが溶けて崩れ、炎が消えるまで。 ふたりきりの夜を思うと、疼くのは胸だけではなかった。
白昼のショッピング街。 「清四郎・・・?」 妄想から冷めると、怪訝顔の悠理が清四郎の顔を覗きこんでいた。 「・・・・・。」 クリスマスソングの流れる街を、清四郎は見回す。 目当てのものは、すぐに見つかった。 左手に紙袋を抱えなおし、すばやく右手を悠理の腰に回した。 「ほぇっ?!」 両手が荷物でふさがった悠理の細い腰を、清四郎は抱え上げる。 そのまま、大股で歩行者をかわしながら、数軒先の建物に駆け込んだ。
ショッピング街に表玄関を開けたシティホテル。 都合の良いことに、剣菱系列。 清四郎は自分の剣菱ゴールドカードを見せ、素早くチェックイン。 悠理が唖然としている間に、ダブルルームに連れ込むことに成功した。
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街を見下ろす窓辺に、買い物袋をドサリと置く。 「な、なんだよぉ、いったい・・・」 ベッドに座り込んで、悠理が抗議。 「ちょっと疲れたので、”ご休憩”です」 清四郎はそう言って、悠理の上に覆いかぶさり、唇を奪った。 「んむっ」 突然のキスに、悠理は目を白黒させてはいたが、次第に体からは強張りが解ける。 もう、すっかり清四郎に慣らされた体だ。
清四郎は悠理の荷物も衣服もすべてベッドの下に放り下ろす。 悠理の両手を思い切り広げ、自分の指を絡めてベッドに張りつけた。 十字架にかかった受難者のように、悠理は苦しげに眉を寄せる。 しかし、吐息は熱く甘く。 すでに、彼女の体にも火は点っていた。
カーテンを閉めていない窓から、冬の午後の光。 白い体がシーツの上で波打つ。 すでに柔らかく緩み、とろけ始めている体が。
どろどろに溶けたキャンドルのように、熱に溶かされ、潤み崩れる。 火傷しそうな雫を指で掻き出し、舐める。 柔らかくどこまでも甘い蝋。
全裸の悠理をベッドに横たえ、清四郎はベッド上から膝立ちで彼女見下ろした。 「僕のも・・・咥えてください」 己の衣服を脱ぎながら告げる。 悠理は真っ赤な顔でこくんと頷いた。
ぴちゃ、と柔らかな舌が先端をくすぐる。 火が点り熱のたぎる、男の蝋燭の先端を。 紅い舌先はそれ自体が炎のようで。 小さな口いっぱいに清四郎の男を含む彼女の苦しげな表情さえ、嗜虐心を刺激された。 しかし、従順な恋人に、無体な真似をする気はない。 ただ、愛したいだけ。
柔らかな炎が蝋を舐め翻弄する。清四郎が悠理に教え込んだ舌技。 あまりの快感に清四郎は身を反らせた。 悠理を焦らし溶かすつもりが、清四郎の方が溶けてしまいそうだった。 「悠理・・・ああ、すごいぞ」 かすみ始めた視界の端に、買い込んだキャンドルが映った。
『いろいろなシチュエーションでつかわれるキャンドルなんですよ。』 店員の言葉を思い出した。
――――いろいろなシチュエーション・・・。 思わず清四郎の脳裏によぎったのは、蝋燭を使ってのメジャーなプレイ。 ――――いや、でもアブノーマルじゃなく、ノーマルで十分・・・ オー@ルセックスを実践しつつ、清四郎は己の健全さを疑いはしなかった。 彼女の身を少しでも傷つける行為はしたくない。 探究心旺盛で多趣味な彼のこと、あれやらこれやら試してみたい気がないではないが、それよりも悠理をいとおしむ気持ちが強いのだ。
しかし、高ぶった意識から、店員の声は消えなかった。 『いろいろなキャンドルを試した後は、こちらのキャンドルでシンプルに楽しんでみては。』 ――――シンプルに、キャンドルを使って・・・
「だ、だめだ・・・!」 あやうく達しかけ、清四郎は悠理の髪をつかんで動きを止める。 四つん這いのまま顔を上げた悠理の濡れて光る口元。 清四郎は性急に体勢を入れ替え、彼女の腰を捕らえて上から覆い被さった。 十分に濡れてぬめる場所に、背後から激しく突き入れる。 「あふ、ああ・・ん!」 悠理は快感の悲鳴を上げた。
あの細いテーパーキャンドルなど、挿入する気はない。悠理のここに収まるのは、清四郎の太くて長い蝋燭だけだ。
「悠理・・・悠理」 後背位で貫き突き入れながら、清四郎は彼女の胸元をまさぐる。 「あ・・・あんっ」 ぐ、と胸に回した手に力を入れ、引き起こす。 背後に腰を下ろし、自分の膝の上に彼女を落とした。 より密接する下肢。 彼女の奥の奥まで埋まるのは、彼自身。
清四郎は深い充足感に、吐息をついた。 動きを止め、華奢な体を膝の上に抱いたまま、彼女の耳元に口を寄せる。 「キャンドルホルダー・・・気に入りました?」 「・・・え・・・あの、銀の?」 「いえ」 清四郎は腰をゆっくりと突き上げた。 「コレ、です」
「・・・・!!!」
どろどろに溶け、柔らかく潤む彼だけのキャンドル。 激しく突き上げ、抗議の声を封じる。 蝋燭の炎が最後に燃え上がるように、悠理の体が震えて高まった瞬間。清四郎もまた自分を解き放った。
幸福感に満ちた冬の午後。 街にはクリスマスソングが流れ、イブの夜への期待は高まる。
しかし、悠理は清四郎の買ったキャンドルもキャンドルホルダーも、気に入らず、ホテルに持ち込むことを許さなかった。
「アブノーマルなんて、するつもりなんてないんですけどねぇ・・・」 残念そうに呟く彼の脳内妄想を、悠理が本能的に察知したわけでもないだろうけど。
聖夜に万歳。

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