E.O〜can't U see?〜
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将軍を父に持つ連邦軍大尉、ミロク・Sに対し、初対面の女賞金稼ぎは豪快に笑い言い放った。
「なんだよ、魅録、その赤毛!おまえ、ピンクの方が似合うぜーー!」 「・・・・・・・・・・・・・。」 母親が赤茶の髪のためもともと赤い地毛を、ミロクはなおも真紅に染めていたのだが。
ミロクに救助され軍艦に乗り移った彼女は、医務室をスルーして直行した食堂で伝説的なほどの大食漢ぶりを示した後。冷静沈着堅物で有名"だった"朋輩に抱えられ引きずられるように、寝室に連れて行かれた。 救助した船の者たちの収容は大部屋だったが、尉官であるセイ・Kには個室が用意されていたのだ。
「・・・・ピンクだってぇ?」 ミロクは自分の短い髪をつまんで、おかしな女と友人が消えた扉の前で呟いた。 彼女が自分に向ける懐かしげな笑みに、胸の奥がくすぐられる。 そして、そんな彼女の首に腕を巻き、自分のものだと言わんばかりに引き寄せたセイの意外に子供っぽい態度表情を思い浮かべて、苦笑した。
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部屋に入りふたりきりになるなり、清四郎は悠理の体を扉に押し付けるようにして唇を奪った。 「ん・・・」 悠理は思わず身じろぐ。 まだ扉の向こうに居る魅録の存在が、悠理の中にこれまで感じなかった羞恥を沸き起こした。 セイとは何度も口づけを交わしてきたのに、有閑倶楽部の仲間の一人なのだと彼を改めて認識すると、気恥ずかしくてたまらない。
そんな彼女の反応に、清四郎は苛立って眉を顰める。 「・・・おまえの望みは叶えたのだから、今度は僕の番ですよ」 助かったら、まず何をしたい?などと言い合いながら、ふたりは楽観的に漂流時間を過ごした。 清四郎は確かに、あのとき悠理に宣言している。
「おまえを、抱きます」
もう一度はっきり言葉に出され、悠理は頬を染めた。
爆発と銃撃戦の中出会い、数時間後にはベッドを共にしていた。 それから閑に任せて何度彼と彼女は睦みあったことか。 それなのに、慣れた手つきで服を脱がし、素肌に唇を寄せる目の前の男を、彼女はもうセックスフレンドとは思えなくなっている。 自分が『ユーリ』であると同時に、『悠理』であると知ったときから。
遠い日々。 花弁の舞い散る桜の木の下。幼稚舎での出会い。 それから仲間になるまでの、十年の歳月。 仲間になってからの、大騒ぎの高校時代。 鮮やか過ぎるその記憶の中で、仲間たちと共に清四郎はいつも悠理のそばにいた。 時に鼻持ちならない、だけど頼りになる悪友として。
どんな運命の悪戯が、ふたりの関係を変質させたのだろう。 悠理の心の奥で、何かが疼く。 彼があの『清四郎』だと思うだけで、いまさらのように動揺する自分がおかしかった。
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眠りに落ちていたわけではない。悠理が浸っていたのは、情事の後の気だるいまどろみ。 「・・・・悠理」 名を呼ばれ、悠理はすぐに目を開けた。だけど、彼はまだ彼女の胸に顔を埋め、目を閉じたまま。 「なんだよ、寝言か?」 清四郎はまたあの夢を見ているのだろう。 どんな場面を見ているのか、覗いてみたい。
無防備な寝顔。男のくせに艶やかで長い睫が、白い面に影を作っている。 鋭角な男の頬を、悠理は人差し指で辿った。 わずかに、薄い髭の感触を指の腹に感じた。 ここに居るのは、悠理の知っている少年でも青年でもなく、20代半ばの大人の男。 悠理自身が少女ではなくなっているように。
悠理はセイ・Kとしての過去を知りたいとは思わなかった。 だって、ひ弱そうな少年も、青年となった清四郎も、悠理は知っている。 悠理の中には、いつでも彼がいた。 一番手ごわくて、一番信頼する仲間として。
新しい清四郎と出会えたことが、嬉しかった。 以前と心は同じでも、新しい自分が。 今度は、牙も爪も磨いだ彼女は、彼を守ることさえできる。
「・・・ペットから、格上げしてもらうからな」 悠理は微笑しながら、爪の先で清四郎の前髪を弾いた。
彼女の指に起こされたのか。彼がパチリと目を開けた。 「・・・・そろそろか?」 「え?」 清四郎は身を起こし、ベッドサイドを手で探った。 まだ、過去の夢に囚われ夢うつつなのかとも思ったが。 「そろそろ、連邦の主要星域に入る頃でしょう。そうしたら、通信網が使える。母星との通信はさすがに遠すぎて無理でしょうが、軍の回線で可憐とは連絡が取れるかもしれませんよ。美童はどこにいるんでしょうかね?」 軍人らしく、一瞬で現実に戻ったらしい。
リモコンを手にし、清四郎は前髪をかき上げた。素肌に軍服の上着だけをはおり、壁のスクリーンを操作するためにベッドを下りる。 悠理は情事の名残からまだ抜けられないまま、ぼんやりと清四郎の後姿を見つめていた。 悠理自身はあの夢を見ていたわけではないけれど。 黒い詰襟の背中が、かつての生徒会長の姿を思い出させた。
「・・・ぷ」 ベッドの上で座ったまま、シーツを口元まで引き上げて、悠理は肩を震わせた。 「何を笑っているんです?」 清四郎は訝しげに振り返る。 「だっておまえ、フルチ・・・」 笑いがこみ上げて来て止まらない。 こんな姿の清四郎を、かつては想像すらできなかった。皆が白鳥便器を抱えて右往左往していた時でさえ、彼だけは襟元一つ乱さなかったのだから。
「あいかわらず、下品な奴だ」 清四郎は憮然とした顔でリモコン片手にベッドに戻った。上着を脱ぎ捨て、悠理の背後から再びベッドに滑り込む。 彼は悠理を腕の中に抱きしめ座り、素肌を重ね合わせた。 悠理が広い胸にもたれると同時に、リモコンのスイッチが押された。
スクリーンからあふれる白い明かり。ノイズ。 清四郎は左手でリモコンを操作し、右手で悠理の乳房をゆっくりまさぐる。 「まだ、通信圏外ですかね・・・」 リモコンがシーツの上に滑り落ち、清四郎の右手は悠理の腹に添えられた。大きな掌が肌を撫でシーツの中に侵入する。 「・・・ん、まだ、かな」 「まだまだ・・・足りない?」 耳元で囁かれた声は睦言。後ろから耳を甘く噛まれ、悠理は喉を鳴らした。
胸を締め付ける感情。 ――――彼を求めるのは、本能だけではない。
心の奥に潜んでいた感情に名を与えないまま、悠理は脳が痺れるような官能に身をまかせる。 ふたりの体が、ひとつに重なった。宇宙空間で抱き合っていたときのように、
『・・・ファンのみなさんは、さぞショックだろうと思うのですが!』
突然、室内に響き渡った金切り声に、ふたりは凝固した。 咄嗟に銃を掴み取らなかっただけマシだろう。声が、TV音声だと気づいたからだ。 壁のスクリーンには、通信圏に入ったことを示す公共放送が流れていた。
『プレイボーイで鳴らした連邦一の人気アクター、ビドウ・Gの婚約会見が、間もなく始まろうとしています。女性ファンの阿鼻叫喚の中、噂の婚約者とともに・・・あ、見えました!』 他愛ない、ワイドショー放送だったが、連絡を取ろうとした仲間の名を聴き取り、清四郎と悠理は画面に見入る。
「「美童が婚約・・・?」」
『ハロー、全宇宙の僕のミューズたち。驚かせてしまって、ごめんね〜』 記憶に違わぬ、長い金髪。魅惑の視線を周囲に振りまく青い目の友人の姿が、スクリーンに映し出された。 そして、その隣に座る美女を目にした途端、全宇宙のビドウファンと同じく、清四郎と悠理も息を飲んだ。
『婚約者は一般人だということですが、いいんですか、ビドウさんっ!公開会見に同席なんてっ!』 質問者の女性リポーターもビドウファンだとみえて、金切り声は涙声。
『私は逃げも隠れもいたしません。この人の所属プロダクションの経営に参画も致しておりますので、私人とばかりはいえませんし』
楚々とした黒髪美女から発せられた冷静な言葉に、リポーターは言葉に詰まる。 『こーゆーひとなんで。』 てへへ、と美童はだらしなく幸せな笑みを見せた。
「「野梨子ぉ〜?!」」
TV画面に向かって、ふたりは驚愕の雄たけびを上げていた。 銀幕のスター、ビドウ・Gの隣に座っていた婚約者は確かに、ノリコ。 セイ・Kの幼馴染であると同時に、過去、白鹿野梨子であっただろう美女だ。
「あ・・・あり得ね〜・・・」 悠理の記憶にある聖プレジデントの日々で、美童と野梨子の組み合わせなど、考えられなかった。 「・・・・軽佻浮薄の美童にとっては、まさに年貢の納め時ですな」 冷静な口調とは裏腹に。 清四郎は呆然とスクリーンを見つめている。 「・・・ふむ」 眉を寄せ、清四郎は顎を撫ぜた。まだ、食い入るように画面を見つめ。 清四郎は悠理以上に衝撃を受けているようだった。
なんとなく、胸がむかむかして。 「しっかし、驚いたなー!」 悠理はあえて大声を上げ、胡坐でコロンとベッドの上に転がった。 清四郎もやっと視線を画面から離し、服を着け始める。 「確かに。意外でしたね」
転がった体勢のまま、悠理は清四郎を見上げた。 「・・・野梨子がおまえの子を産んでたんじゃなくて、残念?」 今度はきっちりと上下とも軍服を着込んだ清四郎は、襟を正す。 「それこそ、あり得ませんよ」 きっぱりと言い切り、清四郎は悠理を見下ろして微笑んだ。
あの頃では、考えられない関係。それは、彼らふたりもそうなのだけど。
「悠理、先ほどの美童と野梨子を見て、思い出したんですが・・・・・悠理は覚えていませんか?僕らも婚約会見をしましたよね」 「ああ、あんときのな」 悠理は肩をすくめる。 「あたいはなんもしゃべった記憶ないけど、プロポーズの言葉とか聞かれて『長い付き合いですから、これといって』なーんて、おまえはぺらぺら上機嫌でしゃべってたよな。よく言うぜって思ったよ」 「いや、そっちのじゃなく」 清四郎は眉を下げて苦笑した。 「二回目の婚約会見です。その時はちゃんとプロポーズもしていましたよ」 「・・・・へ?二回目?」
ポカンと目を見開いた悠理に、清四郎は背を向けた。 「悠理、服を着てください。可憐に連絡を入れてみますから」 「え?あ、うん」
清四郎はIDを入力し、スクリーン画面を軍の回線に替える。すぐに医療部に繋がり、画面に美貌のナースが現れた。 「カレン、セイ・Kです。ミロクから連絡が行ったと思いますが?」 『・・・メールが届いてたわ』 長い巻き毛をまとめた可憐は、黒子の位置まで記憶にある懐かしい姿だった。あろうことか、目を真っ赤に染め、ハンカチを握り締めていたが。 「可憐?どうかしたんですか?」 『どうかしたのかって、知らないのセイ・K?!ついさっき、ビドウが婚約発表したってニュースがあったのよ〜〜!!』 可憐はきいいっとハンカチを噛み締めた。
「か、可憐・・・・って、美童を好きだったのか・・・?」 悠理が唖然と口を挟む。小さく「あり得ねー・・・」と呟きながら。
『彼は宇宙一のアイドルだったのよ!ナースステーションはパニックよぉぉっ!』 可憐は身を捩って叫んでから、ふと真顔になった。 『・・・って、あなた、誰?』 双方向TV電話だ。可憐からも、清四郎と悠理の姿は見えている。 「誰って、悠理だじょ」 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』 じっと、可憐は悠理を見つめる。 悠理は魅録が用意してくれた簡易軍装だ。一見しても彼女の素性は知れないだろう。
態度一変。 可憐はにっこりと極上の笑みを悠理に向けた。 『そういえば、将軍のご子息のミロク・Sと、エリート特捜官のセイ・K、それにそこの美少年さんが、あたしに御用って何なのかしらぁ♪』 可憐の雄弁な笑みに、悠理はずっこけた。ウインクされて、微重力に体が泳ぐ。 悠理が床に激突する前に首根っこを捕らえ、清四郎は可憐に笑みを向けた。
「ダメですよ、可憐。僕らはこれから友人になるんですから」
そう、これから始まるのだ。友情も、冒険も。 新たな関係で、幕が開く。新しい有閑倶楽部の。
エピローグのつもりだったんですが、仲間の消息を全員入れようとしたら、また続く、になってしまいました〜〜。次回で本当にラストです。 おまけの<R>は、ずっと清四郎視点だったので、悠理ちゃん視点を入れたくて・・・えへv(ほんまにそんな理由か、自分?) ”濡れ場から始まった話だから、濡れ場で締めるのが世の理”と心強いアドバイスをくれた友人諸氏に感謝♪ あっ!でも、締まってない?!
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Material:Pearl Box様