「笑顔」〜chiaki〜



静かな音楽。最大限に上品さを醸しだす煌びやかな照明。
着飾った御婦人達の、内容のない会話。
松竹梅千秋は、その全てに興味のなさそうな顔をして、それでも大きく開かれた胸元に左サイドの際どい所までスリッドの入ったドレスを誰よりも嫌味なく着こなし会場内の喧騒をすり抜けていた。
お目当ての相手―――このパーティーの主催者夫人―――を探す傍ら、通りすがりのボーイからワインを受け取る。
それに少し口をつけ辺りに視線を巡らせた時、一際華やかな笑顔に目が止まった。
傍らに寄り添うように立つ青年の顔を見上げる零れんばかりの笑顔の少女。
「あら、ヤダ・・・」
千秋は久々に見る、その少女の変わりように思わず小さく声を漏らしてしまった。
愛息子の友人であるその少女。
いや、その傍らの青年もそうなのだが、今はどうでも良かった。
彼も確かに包み込む雰囲気は柔らかいものに変わっているように思えたが、その少女の方にどうしても目を奪われたのだ。
いつも息子と一緒に大型のバイクを乗り回したり、ロックだなんだと、まるで男友達のようにつるんでいたようなイメージである。
無論、彼女の整った顔立ちはその母親譲りで、見事に美しいものだった。
だが、およそ女性らしさ、というと語弊があるかもしれないが、色気というものがなかったのだ。
色気なら、多少意味は違うが傍らに立つ青年の方があったぐらいだ。
それなのに・・・。
「悠理ちゃんてば、随分素敵な恋してるのね」
恐らく・・・・いや、確実に、相手はずっと優しく見つめている傍らの青年であろう。
千秋は笑顔で見つめあうふたりが微笑ましくもあり、少し悔しくもあった。
久々に会うとはいっても、半年前に一度彼女達を含む息子の悪友達には会っている。
ふたりを見る限り、昨日今日どうにかなったと言うわけでもなさそうだ。
少なくとも半年前なら、互いの気持ちははっきりしていた――――恋はしていたのではないのだろうか。
「ヤダヤダ。あたしの勘も鈍ったのかしら、全く気づかなかっただなんて」
「――――一独り言かよ。老化が進んでじゃねーの」
顔を顰め首を振っていると、突然、良く知る声が上から降ってきた。
「あら、あんたも来てたの」
だが別段驚く事もなく、その顔を見上げる。
「当たり前だろ。悠理んトコのパーティーに俺達が来ない訳ないだろ」
「でしょうね」
同じく久々に見る息子は、クッと片頬を上げると、ウイスキーのグラスを口にした。
「あいつらか?」
尚も可笑しそうに、先ほどまで千秋が見ていたふたりに視線を送る。
「いつからなの?あたし全然気付かなかったわ」
「付き合い始めたのは、この二、三ヶ月だよ。それまではお互い長ーい長ーい片想いってヤツ?あいつら鈍いからなぁ」
「それってあたしに対する嫌味なわけ?」
自分も気付かなかったのだ。嫌味以外何ものでもないだろう。
「あんたも随分言うようになったじゃない」
「まぁね。いつまでもかわいい息子のままでいるほうが気持ち悪いだろ」
「あら、あたしはいつまでもかわいい息子の方がいいわ」
「嫌なこった」
二人は顔を見合わせると、そっくりな顔でニヤリと笑った。
「―――それにしても、ホント、綺麗になったわよねぇ。若いって羨ましわ〜。ちょっとからかってきちゃおうかしら」
「止めとけよ。悠理のヤツ未だに俺達にだって隠してるつもりなんだから」
「あれで?バレバレじゃない。ま、いいわ、それなら清四郎君をからかうから。魅録、あんたも来なさい」
一緒じゃねーか。
そんな呟きが聞こえたが、千秋は心底楽しそうにふたりの元へ、ドレスの裾をたなびかせた。

「清州さん」 「雲海さん」

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