しかし、六月に入っても、男の身元は杳として知れなかった。 悠理といえば、あれ以来、霊に身体を乗っ取られはしなかったが、確かに身体の不調を訴えていたし、珍しく清四郎の言うことを聞いて布団の中でおとなしくしていた。 足の火傷がうずいて、さすがの彼女でも歩き回ることができず、悠理を心配して可憐や野梨子が持ってくる食べ物に、布団の中から億劫そうに手を伸ばして、もそもそを食べているだけである。 それでも、悠理は一縷の望みを込めて「もう成仏しちゃったんじゃないの? 亡骸も見つかったことだしさ」と言ったが、時折布団から這い出してよつんばいで縁側に行き、怠そうに腰を下ろすしかできない悠理の体調を考えると、清四郎はうなずくことはできなかった。何か伝えたいことがあったからこそ、悠理に取り憑いたのであって──剣菱屋の火を消したところで霊が満足できたとは思えず、少なくとも、男がどこの誰なのかが分からない限りは安心できない。 一方、足の火傷は──日頃の体力のお陰か驚異的な快復力を示し、まもなく包帯が取れるという頃。 ようやく、男の身元が割れた。
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