「おやぶ〜ん、ていへんだ〜〜」

ばたばたと駆け込んできた美童に向って、

「お前は八五郎か！」

と、お決まりの突っ込みを入れた五人。

そう、ここはお馴染、剣菱屋の根津の寮。

藤の花を見るために、集まったところであった。

「何だよ、美童、ていへんなことって」

「殺しだよ、殺し」

「殺しだって！どこだ」

南町奉行の嫡男である魅録は、きらりと瞳を輝かせた。

「根津権現の境内で、女が全裸で…」

美童の言葉が終わらぬうちに、清四郎と魅録は駆け出していた。

「は、早いな…」

「全裸の女が被害者だからじゃないの…」

「…まあ、なんてことですの」

などと言いながらも、好奇心には勝てない。

女三人も腰を上げた。

根津権現の境内で、女は死んでいた。

それも、全裸で…

「あ、これって、茶店のばあちゃんじゃないか」

悠理の言葉に、先に駆けつけ呆然と遺体を見下ろしていた魅録と清四郎が振り向いた。

明らかに顔に落胆の色を浮かべて。

茶店の婆さんは、店の土間で行水をしていたらしい。

近在の医者がやってきて、遺体を見ていたが、首をかしげ、

「外傷はないですよ…心の臓じゃないですかねえ」

「だが、なんで土間で行水していた婆さんが、こんなところで倒れているんだ」

「それが謎ですねえ」

魅録と清四郎は眉間に皺を寄せて悩んでいる。

しばらくすると、岡っ引きが、

「坊ちゃん、こいつが犯人ですよ」

と、猫を差し出した。

「猫？」

猫は口に赤い腰巻きをくわえていた。

「…もしかして、猫がこの腰巻きをくわえて逃げたのを、追いかけて行って…」

「心の臓の発作で、ぽっくり、か？」

岡っ引きは苦笑を浮かべて頷いた。

婆さんは、娘がつけるような派手な腰巻きが恥ずかしかったに違いない。

慌てて追いかけたが、そのせいで、余計に恥ずかしい最後を迎えてしまったのだろう。

「婆ちゃん…気の毒にな」

「ええ…」

悠理たち女三人は、茶店の婆さんの女心を慮り、手を合わせた。

そして、魅録と清四郎は…

美童を境内の裏手に連れ込んで、ぼこぼこにしていた。

そう、八つ当たりで…

気を取り直して、五人は藤の花を見物に出かけた。

ぼこぼこにされた美童を除いて…

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